大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所函館支部 昭和34年(う)67号 判決 1960年1月12日

控訴人 被告人 一柳貫一 外一名

弁護人 臼木豊寿

検察官 梅田孝久

主文

被告人一柳貫一に対する原判決を破棄する。

同被告人を罰金一万五千円に処する。

同被告人において右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

同被告人に対する公訴事実一、二及び四につき同被告人は無罪。

被告人島村富太郎の本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人両名の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は被告人両名の弁護人臼木豊寿提出の各控訴趣意書記載のとおりであるから、いずれもこれをここに引用する。

被告人一柳貫一に関する控訴趣意第一点及び第二点(事実誤認及び法令適用の誤)。

所論は被告人一柳は石岡巌の依頼によつて写真の複製又は焼付をし出来上つた写真を同人に交付し又は所持したのみであつて、同人以外の何人にも交付する意思もなかつたのであるが、刑法第一七五条にいう販売とは頒布と同様多数人に交付する目的を有する場合をいうのであつて、一人の特定人にのみ交付する目的の場合は処罰の対象とならないから、被告人の行為をもつて同条の販売又は所持に該るものとした原判決は事実を誤認したか又は法令の解釈適用を誤つたものであると主張する。よつて右所論について考えるに、刑法第一七五条にいう販売とは不特定又は多数の者に対してなす目的をもつてする有償譲渡をいうものと解するのが相当であるから、特定人からその持参した猥せつ写真の複製を依頼されてこれを複製し依頼者に複製写真を交付したのみで、右複製写真を依頼者以外の第三者には交付する意思のなかつた場合は、たとい有償で複製した場合においても刑法第一七五条にいう猥せつ図画の販売には該らないものと解すべきところ、原判決挙示の証拠を綜合しても被告人一柳貫一は依頼者石岡巌の注文に応じて同人に交付する目的を以つて本件写真を複製又は焼付をし、これを同人に交付し又は所持していた事実を認定しうるに止まり、同被告人が不特定又は多数の者に交付する目的をもつて、これを交付し又は所持したものとは到底認定することができない。そして原判示第一乃至第三の事実の判文と右事実認定の各証拠とを対比すると、原判決は右のような目的の点を深く検討することなく特定人よりその持参した猥せつ写真の複製を依頼されてこれを複製し依頼者に複製写真を代金を受領して交付したときは直ちにそれだけで猥せつ図画の販売に該当するものと解して、被告人一柳が石岡巌に猥せつ写真を販売し又は販売の目的で所持したとの原判示第一乃至第四の犯罪を認定したことが明かであるから、原判決は刑法第一七五条の解釈適用を誤つたものであること所論のとおりであつて、右法令適用の誤は判決に影響を及ぼすこと明かであるから、被告人一柳貫一に関する控訴趣意第三点(量刑不当)についての判断をするまでもなく同人に対する原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

被告人島村に関する控訴趣意第一点(事実誤認)。

所論は被告人島村は本件の春画及び猥せつ写真についていずれもせり売の仲介をしたものにすぎず、自ら売主となつて販売したものではないから、同被告人がこれを販売したとの原判示各事実を認定した原判決は事実を誤認したものであると主張する。しかし同被告人の検察官に対する供述調書によれば、同被告人は原判示の各猥せつ図画について、いずれも所論の如くせり売の仲介をしたものであつて自己の所有する猥せつ図画を販売したものではないけれども、原判示の各共犯者と共謀しその所有する各猥せつ図画を各原判示の相手方に販売する実行行為に加担したことが明かであるから、原判決には何ら所論のような事実誤認はない。論旨は理由がない。

同第二点(量刑不当)。

本件記録並に原裁判所で取調べた証拠によつて認められる被告人島村の本件犯行の回数、販売した猥せつ図画の数量その他諸般の事情を綜合すると、所論を考慮に容れても、原判決の量刑が不当に重いとは認められない。論旨は理由がない。

よつて被告人一柳に関しては刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第四〇〇条但書により原判決を破棄した上更に当裁判所において左のとおり判決し、被告人島村の本件控訴は同法第三九六条によりこれを棄却すべきものとする。

(罪となるべき事実)

被告人一柳貫一は肩書住居地において写真業を営むものであるが、昭和三十三年六、七月頃古物商を営む石岡巌より同人の持参した男女性交の姿態又は男女の陰部を撮影した写真約九十枚につきその複製を依頼され、その頃これを複製して各一枚宛の複製写真を同人に交付したが、同年十二月上旬頃再び右石岡より右複製写真各二、三枚の焼増方を依頼されるや、その頃肩書自宅において先に複製したとき作成したフィルムを用いて、右の如く男女性交の姿態又は男女の陰部を撮影した複製写真約二百三十枚を作成した上、同月下旬頃右肩書自宅において右石岡に対し同人が他に販売の目的をもつて所持するに至ることを知りながら、右複製写真のうち約百二十枚を、一枚につき金二十円の複製代金を受領して交付し、もつて即時同所において同人が猥せつ図画を他に販売する目的で所持することを容易ならしめて、これを幇助したものである。

(証拠の標目)

一、石岡巌の検察官に対する供述調書。

一、被告人一柳貫一の検察官に対する供述調書。

一、当審公判廷における同被告人の供述(但し約二百三十枚の写真は七月に作成を頼まれたとの供述部分を除く)。

一、押収にかかるフィルム二十枚(昭和三四年領第九号検六号)及び複製写真百十枚(同検二号)。

(法令の適用)

被告人一柳の判示所為は刑法第一七五条後段罰金等臨時措置法第二条第三条刑法第六二条第一項に該当するところ、所定刑中罰金刑を選択し、同法第六三条第六八条により減軽した罰金額の範囲内で同被告人を罰金一万五千円に処し、同法第一八条により同被告人において右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

(一部無罪)

被告人一柳に対する公訴事実の要旨は「同被告人は、一、昭和三十三年六月下旬頃肩書自宅において石岡巌に対し男女性交の姿態又はその陰部を撮影した写真三十枚位を代金一枚につき二十円の割合で販売し、二、同年七月上旬頃前同所において前同人に対し前同様の写真六十枚位を前同様の代金で販売し、三、同年十二月下旬頃前同所において前同人に対し前同様の写真百二十枚位を前同様の代金で販売し、四、同年十二月下旬頃前同所で販売の目的で前同様の写真百十枚を所持したものである」というのであるが、同被告人が右写真を不特定又は多数の者に対してなす目的をもつて右石岡に譲渡し又はその目的をもつてこれを所持していたことを認めるに足りる何らの証拠がないことは、前記の如く同人に関する控訴趣意についての判断において説示したとおりである。また当審において検察官が追加した右公訴事実一及び二に対する予備的訴因の要旨は「同被告人は、一、昭和三十三年六月下旬頃肩書自宅において石岡巌に対し同人が販売の目的をもつて所持するに至ることを知りながら男女性交の姿態又は男女の陰部を撮影した複製写真三十枚位を代金一枚につき二十円の割合で交付し同人をして右目的をもつて所持するに至らしめて幇助し、二、同年七月上旬頃前同所において前同人に対し同人が販売の目的をもつて所持するに至ることを知りながら前同様の写真六十枚位を前同様の代金で交付し同人をして右目的をもつて所持するに至らしめて幇助したものである」というのであるが、当審公判廷における同被告人の供述によると同被告人は当時石岡が右複製写真を他に販売する目的であることを知らず従つて同人の販売目的の所持を幇助する犯意がなかつたものと認められ、他に右犯意の存在を認めるに足りる適確な資料がない。よつて右公訴事実一、二及び四についてはいずれも犯罪の証明がないことに帰着するから、刑事訴訟法第三三六条に則り右各公訴事実につき被告人に対し無罪の言渡をする。

なお、同被告人に対する公訴事実三の訴因については右の如く犯罪の証明がないけれども、検察官は当審において右公訴事実三について前記判示の如き猥せつ図画の販売目的所持幇助の訴因を予備的に追加し、右予備的訴因については判示の如き認定の下に同被告人を処罰するものであるから、右主たる訴因については特に主文において無罪の言渡をしない。

よつて当審における訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 羽生田利朝 裁判官 安久津武人 裁判官 今村三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例